● いつもありがとうございます、あさてつです。
秋も深まってまいりましたね。秋は、スポーツ、芸術、食欲……などなどありますが、皆さんは何を連想しますか?
私は「読書」です。皆さんの推しの作家さんはいらっしゃいますか?個人的には、「夏目漱石」先生をプッシュしておきたいと思います!
なぜかというと、彼も「英語教師」。英語を取り扱うここの場所において、真っ先にリスペクトしておきたいお人なのです!!
ということで、今回は「英語で読む夏目漱石」と題して、あの有名作品のタイトルやフレーズの英訳をご紹介!ぜひ日本の文豪の作品を英語で味わってみましょう!これが意外に面白いんですよ。
これが有名な夏目漱石のフレーズの英訳だ
「吾輩は猫である」
非常に有名な作品。中学校で教師をしている珍野苦沙弥(ちんの・くしゃみ)に拾われた猫が「吾輩」と語り、その主観から人間界を眺めていく――というお話。すべてを読んだことがないという人でも、夏目漱石といえばこれ!と連できる作品ですね。英語のタイトルは
I Am a Cat
「吾輩」とかっこつけて名乗る、偉そうと言うか存在感のある感じが消えている感じも否めませんが……逆に、シンプル故に「ね、ネコがしゃべったぁ!?」みたいな新鮮さや驚きは感じられますね。
「吾輩は猫である。名前はまだない」
作品の冒頭、猫様の自己紹介シーン。前半部分はタイトルと同じ I am a cat. となりますが、後半はどうなるのでしょうか?
I am a cat. As yet I have no name.
as yetというフレーズが使われています。これは、「今のところはまだ~していない」という意味を表しています。もちろん、yetですので否定文と一緒に使うのが普通ですね。
ここには、「将来的には分からないけれども」というニュアンスが隠されています。「珍野先生に拾われた猫様が、もしかしたら名付けてもらえるのかも……?」なんて、読者を期待させそうな書き出しです。
「なんでも薄暗いじめじめしたところでニャーニャー泣いていたことだけは記憶している」
この擬音語をどう表現しているのかが気になりますよね。そこに注目しながら見てみましょう。
All I remember is that I was meowing in a dampish dark place when, for the first time, I saw a human being.
meowは「ニャー」という猫の鳴き声を表す英語の擬音語です。もっと小さい猫の場合はmewという表現を使ったりもします。日本語だと「ミィー」と言った感じでしょうか。
英語のオノマトペ(擬音語、擬態語)の特徴は、動詞と同じように使ってしまえる(ものによりますが)ことですね。今回もing形にしています。
さて、ここで皆さん気が付きましたでしょうか?やたらと文が長いことに!
そう、続く「吾輩はここで始めて人間というものを見た。」までが含まれているんですね。whenという接続詞を使って「初めて人間を見た時、」と続けているのです。
It was the place that I saw a human being for the first time.
なんていうふうにすることもできると思うのですが、ここを強調しすぎても話の流れがスムーズにいかなくなりますし、これはこれでナイス表現!という感じです。
「坊っちゃん」
続いても有名作品。けんかっ早く無鉄砲な江戸っ子気質の「坊っちゃん」は都会から四国の田舎へと赴任してきた教師で、その赴任先の学校での諸々が描かれていく作品です。先ほどの苦沙弥先生と同様、夏目漱石先生ご本人の職業を思いっきり使っているあたり、メタ的な要素としても面白いですね。
タイトルの英訳はMaster Darlingとされていますが、そのままBotchanとしているバージョンもあります。
masterは「師」や「先生」、「何かの達人」なんて意味もありますが、やや古い使い方で「Mr.をつけるには若すぎる主人や男の子に対してつける敬称」なんて意味もあります。ちょうど、ちびまる子ちゃんでヒデじいが花輪君を「ぼっちゃま」と呼ぶような、そんな感じですね。
darlingは「ダーリン」で分かるように、「あなた」とかの呼びかけで使う単語です。夫婦間・恋人同士・家族の間で男女を問わず使えます。「ねえ」とか「ちょっと」とかにも共通するものがありますね(笑) また、幼い子供に呼びかけるときに用いられることもあります。ですので、結局masterもdarlingも「ぼっちゃん」と呼びかけているのですね。
「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」
印象に残る書き出しですね。「坊っちゃん」という作品は、まあ他のものにも言えることですが、訳者によって様々あります。今回は「名訳」とも名高いAlan Turneyという方の訳を見ていくこととします。
Ever since I was a child, my inherent recklessness has brought me nothing but trouble.
inherentという単語が、「親譲りの」を表しています。もともとは「性質などが本来備わっている」とか「生まれつき存在する」「持ち前の」なんて意味を持っている形容詞です。
「無鉄砲」はrecklessnessという単語があてられていますね。reckは「気にかける」、そこに「無い」を表す-lessを足し、更にそれを名詞化する-nessをつけて「気にかけないこと」=「無鉄砲」となっているのですね。そんな、my inherent recklessness「私の持ち前の無鉄砲」が主語となって後半戦を展開させています。
nothing butで「ただ」とか「~のみ」という意味になります。nothing but troubleで「ただトラブルばかり」としたのですね。それがbrought me「私のところに運んでくる」、となっているわけです。日本語にはなじみのない「無生物主語」ではありますが、こうして解体していくととても面白いですね。
「弱虫やーい」
先の冒頭から、小学校の時に二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした、という話になり、その理由として同級生にバカにされたから、と続きます。その同級生のセリフがこちら。皆さんは何か思いつきましたか?
Yah! Sissy!
sissyは「女々しい男子」とか「弱虫」「意気地なし」といった意味を持つ単語です。これは単語の知識はもちろん、その言葉を使いこなせるセンスというか磨かれた感覚が必要になってきますね。
「野だいこ」
この作品の面白いところの一つに、主人公である「坊っちゃん」がそれぞれの登場人物につけた「あだ名」があります。
教頭先生である「赤シャツ」はそのままRedshirtですし、校長である狸もBadgerとなっています。(タヌキは普通に訳すとracoon dogで、badgerは正確には「アナグマ」ですが、「人を逆上するほどに困らせる」という意味の動詞としても使える単語なので、ネガティブな印象を抱いていた「坊っちゃん」にとってはぴったりの単語かもしれませんね)
さて、画学の教師である野だいこはというと……
the art master is the Clown
「画家は野だいこ」
clown「道化師」「ピエロ」という単語が使われています。訳者によっては「野だいこ」の由来である「太鼓持ち」「取り巻き」を意味するHanger-onという単語を使っているものもあります。こちらの方が直接的に表しているなあとは思いますが、clownにもちゃんと意味はあります。
「客の宴席に侍して座を取り持つなどして遊興を助ける男芸者」のことを「太鼓持ち」と言い、芸もないのにただその場にいるだけの人をこの言葉を使って卑しめることがありました。そこからclownが連想されたんでしょうね。なかなか遠回りな解釈です…
「うらなり」
主人公の赴任先で英語教師をしていた「うらなり」。そもそも「うらなり」って日本語自体をあんまりよく分かってない!という、私みたいな人もいることでしょう。広辞苑でひいてみました。
【うらなり】
「ウリ、カボチャなどっで、弦の先の方に遅れて実がなること。また、その実」
引用:広辞苑
とありました。そこから転じて、「顔が青白く、やせて元気のない人の喩えに使う。」という記述もありました。まさに「坊っちゃん」が意図していたところですね。さぁ、英訳をみると…
the English master is the Green Pumpkin
「英語の教師はうらなり」
Greenという単語を入れて「未熟な」という意味合いを足しているのでしょう。「うらなりの唐茄子」を“the pale squashes that grow right at the tip of the vine when the plant is past its prime”と訳してあるバージョンもあります。
squashは、ウリやカボチャの総称です。あだ名としては長すぎますが(笑)、正確にその意味を表しているのもまた面白いところです。
「山嵐」
数学教師である「山嵐」、直訳するとmountain stormになりますが……この訳は感動しました。ぜひ皆さんも感動してください!
the mathematics master is the Porcupine
「数学は山嵐」
porcupineは……動物の「ヤマアラシ」という意味の単語です!!これは訳者さん天晴!!!
あとがき
さて、いかがでしたでしょうか。
今回は夏目漱石先生の「吾輩は猫である」「坊ちゃん」をピックアップしてみました。日本の文豪の名作を英語で見てみると、その文化の違いや訳者の力量を垣間見ることができて、とても面白いですね。
他にもまだまだ漱石先生の作品はあります。秋の夜長、文豪の遺した名作を日本語でも英語でも堪能してみてくださいね。
また会いましょう。
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